不法行為に基づく損害賠償に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。
ア
Aの運転する自動車がAの前方不注意によりBの運転する自動車と衝突して、Bの自動車の助手席に乗っていたBの妻Cを負傷させ損害を生じさせた。CがAに対して損害賠償請求をする場合には、原則としてBの過失も考慮される。
イ
Aの運転する自動車と、Bの運転する自動車が、それぞれの運転ミスにより衝突し、歩行中のCを巻き込んで負傷させ損害を生じさせた。CがBに対して損害賠償債務の一部を免除しても、原則としてAの損害賠償債務に影響はない。
ウ
A社の従業員Bが、A社所有の配達用トラックを運転中、運転操作を誤って歩行中のCをはねて負傷させ損害を生じさせた。A社がCに対して損害の全額を賠償した場合、A社は、Bに対し、事情のいかんにかかわらずCに賠償した全額を求償することができる。
エ
Aの運転する自動車が、見通しが悪く遮断機のない踏切を通過中にB鉄道会社の運行する列車と接触し、Aが負傷して損害が生じた。この場合、線路は土地工作物にはあたらないから、AがB鉄道会社に対して土地工作物責任に基づく損害賠償を請求することはできない。
オ
Aの運転する自動車がAの前方不注意によりBの運転する自動車に追突してBを負傷させ損害を生じさせた。BのAに対する損害賠償請求権は、Bの負傷の程度にかかわりなく、また、症状について現実に認識できなくても、事故により直ちに発生し、3年で消減時効にかかる。
1 ア・イ
2 ア・エ
3 イ・オ
4 ウ・エ
5 ウ・オ
解答
正解
1解説
ア 〇
Aの運転する自動車がAの前方不注意によりBの運転する自動車と衝突して、Bの自動車の助手席に乗っていたBの妻を負傷させ損害を生じさせた。CがAに対して損害賠償を請求する場合には、原則としてBの過失も考慮される。
・ 夫の運転する自動車に同乗する妻が右自動車と第三者の運転する自動車との衝突により損害を被つた場合において夫にも過失があるときと民法七二二条二項 (最判昭和51年3月25日)
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和51年3月25日)
イ 〇
Aの運転する自動車と、Bの運転する自動車が、それぞれの運転ミスにより衝突し、歩行中のCを巻き込んで負傷させ損害を生じさせた。CがBに対して損害賠償債務の一部を免除しても、原則としてAの損害賠償債務に影響はない。
・ 共謀による共同不法行為と民法四三四条の適用の有無 (最判昭和57年3月4日)
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和57年3月4日)
ウ ×
A社の従業員Bが、A社所有の配達用トラックを運転中、運転操作を誤って歩行中のCをはねて負傷させ損害を生じさせた。A社がCに対して損害の全額を賠償した場合、A社は、Bに対し、
・民法 第七百十五条3項
・ 使用者がその事業の執行につき被用者の惹起した自動車事故により損害を被つた場合において信義則上被用者に対し右損害の一部についてのみ賠償及び求償の請求が許されるにすぎないとされた事例 (最判昭和51年7月8日)
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和51年7月8日)
エ ×
Aの運転する自動車が、見通しが悪く遮断機のない踏切を通過中にB鉄道会社の運行する列車と接触し、Aが負傷して損害が生じた。この場合、線路は土地工作物に
・民法 第七百十七条
・ 踏切道の軌道施設に設置上のかしがあるとされた事例 (最判昭和46年4月23日)
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和46年4月23日)
オ ×
Aの運転する自動車がAの前方不注意によりBの運転する自動車に追突してBを負傷させ損害を生じさせた。BのAに対する損害賠償請求権は、Bの負傷の程度にかかわりなく、また、症状について現実に認識できなくても、事故により
・ 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行しないとされた事例 (最判昭和42年7月18日)
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和42年7月18日)
■ 判例
・ 夫の運転する自動車に同乗する妻が右自動車と第三者の運転する自動車との衝突により損害を被つた場合において夫にも過失があるときと民法七二二条二項 (最判昭和51年3月25日)
「夫の運転する自動車に同乗する妻が右自動車と第三者の運転する自動車との衝突により損害を被つた場合において、右衝突につき夫にも過失があるときは、特段の事情のない限り、右第三者の負担すべき損害賠償額を定めるにつき、夫の過失を民法七二二条二項にいう被害者の過失として掛酌することができる」
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和51年3月25日)
・ 共謀による共同不法行為と民法四三四条の適用の有無 (最判昭和57年3月4日)
「共同不法行為が行為者の共謀による場合であつても、民法四三四条の規定は適用されない」
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和57年3月4日)
・ 使用者がその事業の執行につき被用者の惹起した自動車事故により損害を被つた場合において信義則上被用者に対し右損害の一部についてのみ賠償及び求償の請求が許されるにすぎないとされた事例 (最判昭和51年7月8日)
「石油等の輸送及び販売を業とする使用者が、業務上タンクローリーを運転中の被用者の惹起した自動車事故により、直接損害を被り、かつ、第三者に対する損害賠償義務を履行したことに基づき損害を被つた場合において、使用者が業務上車両を多数保有しながら対物賠償責任保険及び車両保険に加入せず、また、右事故は被用者が特命により臨時的に乗務中生じたものであり、被用者の勤務成績は普通以上である等判示の事実関係のもとでは、使用者は、信義則上、右損害のうち四分の一を限度として、被用者に対し、賠償及び求償を請求しうるにすぎない」
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和51年7月8日)
・ 踏切道の軌道施設に設置上のかしがあるとされた事例 (最判昭和46年4月23日)
「土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備とあわせ一体としてこれを考察すべきであり、本来そなえるべき保安設備を欠く場合には、土地の工作物たる軌道施設の設置にかしがあるものとして、民法七一七条所定の帰責原因になる」
「電車の踏切において、横断者からみた踏切付近の見通しが判示のとおりであり、所定の速度で踏切を通過しようとする電車の運転者が、踏切上にある歩行者を最遠距離において発見してただちに急停車の措置をとつても、踏切を越える地点でなければ停止できないほど見通しが悪いうえ、一日につき、換算交通量七〇〇人程度、列車回数五〇四回にのぼり、過去においても数度に及ぶ電車と通行人との接触事故があつたという事情のある場合には、少なくとも右踏切に警報機を設置していなかつたことは、土地の工作物たる軌道施設の設置にかしがあつたものというべきである」
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和46年4月23日)
・ 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行しないとされた事例 (最判昭和42年7月18日)
「不法行為によつて受傷した被害者が、その受傷について、相当期間経過後に、受傷当時には医学的に通常予想しえなかつた治療が必要となり、右治療のため費用を支出することを余儀なくされるにいたつた等原審認定の事実関係(原判決理由参照)のもとにおいては、後日その治療を受けるまでは、右治療に要した費用について民法第七二四条の消滅時効は進行しない」
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和42年7月18日)
■ メモ
掛酌
AI による概要
「掛酌」は誤記の可能性が高い言葉です。文脈により、以下の正しい熟語のいずれかを指していると考えられます。
斟酌(しんしゃく): 相手の事情や心情をくみ取ること。また、考慮して手加減すること。
酌量(しゃくりょう): 事情をくみ取って、処罰や判断を軽くすること(「情状酌量」など)。
掛錫(かしゃく): 僧侶が他の寺院に滞在し、修行すること。
茶杓(ちゃしゃく): 抹茶をすくうための茶道具。
■ 民法
(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。