基本的人権の限界に関して、次の文章のような見解が主張されることがある。この見解と個別の人権との関係に関わる次のア~オの記述のうち、正しいものはいくつあるか。
日本国憲法は、基本的人権に関する総則的規定である13条で、国民の権利については「公共の福祉に反しない限り」国政の上で最大の尊重を必要とすると定めている。これは、それぞれの人権規定において個別的に人権の制約根拠や許される制約の程度を規定するのではなく、「公共の福祉」による制約が存する旨を一般的に定める方式をとったものと理解される。したがって、個別の人権規定が特に制約について規定していない場合でも、「公共の福祉」を理由とした制約が許容される。
ア
憲法36条は、「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」と定めるが、最高裁判例は「公共の福祉」を理由とした例外を許容する立場を明らかにしている。
イ
憲法15条1項は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と定めるが、最高裁判例はこれを一切の制限を許さない絶対的権利とする立場を明らかにしている。
ウ
憲法21条1項は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定めるが、最高裁判例は「公共の福祉」を理由とした制限を許容する立場を明らかにしている。
エ
憲法21条2項前段は、「検閲は、これをしてはならない」と定めるが、最高裁判例はこれを一切の例外を許さない絶対的禁止とする立場を明らかにしている。
オ
憲法18条は、「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」と定めるが、最高裁判例は「公共の福祉」を理由とした例外を許容する立場を明らかにしている。
1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ
5 五つ
解答
正解
2解説
ア ×
憲法36条は、「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」と定める
・公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる( 日本国憲法 第三十六条)
イ ×
憲法15条1項は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と定めるが、最高裁判例はこれを
・公職選挙法 第十一条
・ 公職選挙法違反(公民権停止事件・最判昭和30年2月9日)
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和30年2月9日)
ウ 〇
憲法21条1項は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定めるが、最高裁判例は「公共の福祉」を理由とした制限を許容する立場を明らかにしている。
・ 食糧緊急措置令違反(最判昭和24年5月18日)
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和24年5月18日)
・ 猥褻文書販売(チャタレー事件・最判昭和32年3月13日)
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和32年3月13日)
エ 〇
憲法21条2項前段は、「検閲は、これをしてはならない」と定めるが、最高裁判例はこれを一切の例外を許さない絶対的禁止とする立場を明らかにしている。
・検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない(日本国憲法 第二十一条 2項)
・ 札幌税関検査事件(最判昭59年12月12日)
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭59年12月12日)
オ ×
憲法18条は、「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」と定める
・何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない(日本国憲法 第十八条)
■ 判例
・ 公職選挙法違反(公民権停止事件・最判昭和30年2月9日)
「公職選挙法第二五二条は憲法第一四条、第四四条に違反せず、かつ国民の参政権を不当に奪うものではない」
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和30年2月9日)
・ 食糧緊急措置令違反(最判昭和24年5月18日)
「一 食糧緊急措置令第一一条と憲法第二一条
二 食糧緊急措置令の合憲性
三 憲法第二一條の法意
四 食糧管理法の合憲性」
「一 食糧緊急措置令第一一条は、憲法第二一条に違反しない。
二 食糧緊急措置令は昭和二一年二月一七日舊憲法第八條に基いて制定された緊急勅令であつて、その後帝國議會の承諾を得て法律と同一の効力を有するに至つたものである。そして、新憲法施工前に適式に制定された法規は、その内容が新憲法の條規に反しない限り、新憲法の施工後においてもその効力を有することは當裁判所の判例として示すところである(昭和二三年(れ)第二七九號同二三年六月二三日大法廷判決)
三 新憲法第二一條は、基本的人權の一つとして言論の自由を保障している。そして、新憲法の保障する基本的人權は、侵すことのできない永久の權利として、現在及び将來の國民に與えられたものであり、また、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果として現在及び将來の國民に對し侵すことのできない永久の權利として信託されたものであることは新憲法の規定するところである(憲法第一一條第九七條)
四 現今における貧困なる食糧事情の下に國家が國民全体の主要食糧を確保するために制定した食糧管理法所期の目的の遂行を期するために定められたる同法の規定に基く命令による主要食糧の政府に對する賣渡に關しこれを爲さざることを煽動するが如きは、政府の政策を批判しその失政を攻撃するに止るものではなく國民として負擔する法律上の重要な義務の不履行を慫慂し、公共の福祉を害するものである。されば、かゝる所爲は、新憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱し社會生活において道義的に責むべきものであるから、これを犯罪として處罰する法規は新憲法第二一條の條規に反するものではない」
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和24年5月18日)
・ 猥褻文書販売(チャタレー事件・最判昭和32年3月13日)
「一 刑法第一七五条にいわゆる「猥褻文書」の意味
二 「猥褻文書」に当るかどうかは事実問題か法律問題か。
三 「猥褻文書」に当るかどうかの判断の基準。
四 社会通念とは何か。
五 刑法第一七五条にいわゆる「猥褻文書」に当る一事例。
六 芸術的作品と猥褻性。
七 猥褻性の存否と作者の主観的意図。
八 刑法第一七五条に規定する猥褻文書販売罪における犯意。
九 憲法第二一条に保障する表現の自由と公共の福祉。
一〇 旧出版法第二七条と刑法第一七五条との関係。
一一 憲法第二一条第二項による検閲の禁止と猥褻文書販売罪。
一二 憲法第七六条第三項にいう裁判官が良心に従うとの意味。
一三 刑訴法第四〇〇条但書に違反しない一事例」
「一 刑法第一七五条にいわゆる「猥褻文書」とは、その内容が徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する文書をいう。
二 文書が「猥褻文書」に当るかどうかの判断は、当該文書についてなされる事実認定の問題でなく、法解釈の問題である。
三 文書が、「猥褻文書」に当るかどうかは、一般社会において行われている良識、すなわち、社会通念に従つて判断すべきものである。
四 社会通念は、個々人の認識の集合又はその平均値でなく、これを超えた集団意識であり、個々人がこれに反する認識をもつことによつて否定されるものでない。
五 Aの翻訳にかかる、昭和二五年四月二日株式会社小山書店発行の「チヤタレイ夫人の恋人」上、下二巻(ロレンス選集1・2)は、刑法第一七五条にいわゆる猥褻文書に当る。
六 芸術的作品であつても猥褻性を有する場合がある。
七 猥褻性の存否は、当該作品自体によつて客観的に判断すべきものであつて、作者の主観的意図によつて影響されるものではない。
八 刑法第一七五条に規定する猥褻文書販売罪の犯意がありとするためには、当該記載の存在の認識とこれを頒布、販売することの認識があれば足り、かかる記載のある文書が同条所定の猥褻性を具備するかどうかの認識まで必要とするものではない。
九 憲法第二一条の保障する表現の自由といえども絶対無制限のものではなく、公共の福祉に反することは許されない。
一〇 旧出版法第二七条と刑法第一七五条とは特別法と普通法の関係にある。
一一 憲法第二一条第二項によつて事前の検閲が禁止されたことによつて、猥褻文書の頒布、販売を禁止し得なくなつたものではない。
一二 憲法第七六条第三項にいう裁判官が良心に従うとは、裁判官が有形、無形の外部の圧迫ないし誘惑に屈しないで自己の内心の良識と道徳感に従う意味である。
一三 本件第一審判決がその判示のごとき理由で被告人に無罪の言渡をしても控訴裁判所において「右判決は法令の解釈を誤りひいては事実を誤認したものとして」これを破棄し、自ら何ら事実の取調をすることなく、訴訟記録及び第一審裁判所で取り調べた証拠のみによつて、直ちに被告事件について、犯罪事実を認定し有罪の判決をしたからといつて、必ずしも刑訴第四〇〇条但書の許さないところではない。」
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭和32年3月13日)
・ 札幌税関検査事件(最判昭59年12月12日)
「輸入禁制品該当通知処分等取消」
「一 関税定率法二一条三項の規定による税関長の通知と抗告訴訟の対象
二 憲法二一条二項前段の検閲禁止の趣旨
三 憲法二一条二項にいう「検閲」
四 関税定率法二一条一項三号所定の物件に関する税関検査と憲法二一条二項にいう「検閲」
五 関税定率法二一条一項三号の規定による猥褻表現物の輸入規制と憲法二一条一項
六 表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許される場合
七 関税定率法二一条一項三号の「風俗を害すべき書籍図画」等との規定の意義及びその合憲性」
「一 関税定率法二一条三項の規定による税関長の通知は、抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にあたる。
二 憲法二一条二項前段の検閲禁止は、公共の福祉を理由とする例外の許容をも認めない趣旨と解すべきである。
三 憲法二一条二項にいう「検閲」とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべきである。
四 関税定率法二一条一項三号所定の物件に関し、輸入手続において税関職員が行う検査は、憲法二一条二項にいう「検閲」にあたらない。
五 関税定率法二一条一項三号の規定による猥褻表現物の輸入規制は、憲法二一条一項に違反しない。
六 表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許されるのは、その解釈により、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制しうるもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また、一般.国民の理解において、具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読みとることができるものでなければならない。
七 関税定率法二一条一項三号の「風俗を害すべき書籍、図画」等とは、猥褻な書籍、図画等を指すものと解すべきであり、右規定は広汎又は不明確の故に憲法二一条一項に違反するものではない」
(裁判所 裁判例結果詳細 最判昭59年12月12日)
■ 公職選挙法
(選挙権及び被選挙権を有しない者)
第十一条 次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
一 削除
二 拘禁刑以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
三 拘禁刑以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)
四 公職にある間に犯した刑法(明治四十年法律第四十五号)第百九十七条から第百九十七条の四までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(平成十二年法律第百三十号)第一条の罪により刑に処せられ、その執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から五年を経過しないもの又はその刑の執行猶予中の者
五 法律で定めるところにより行われる選挙、投票及び国民審査に関する犯罪により拘禁刑に処せられその刑の執行猶予中の者
2 この法律の定める選挙に関する犯罪により選挙権及び被選挙権を有しない者については、第二百五十二条の定めるところによる。
3 市町村長は、その市町村に本籍を有する者で他の市町村に住所を有するもの又は他の市町村において第三十条の六の規定による在外選挙人名簿の登録がされているものについて、第一項又は第二百五十二条の規定により選挙権及び被選挙権を有しなくなるべき事由が生じたこと又はその事由がなくなつたことを知つたときは、遅滞なくその旨を当該他の市町村の選挙管理委員会に通知しなければならない。。
■ 日本国憲法
第十八条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。